今まで生きてきた中で、私は、誰のこと、正確には、誰の愛情も信じたことがなかった。
親のことも家族のことも先生のことも同級生のことも先輩、後輩のことも近所のおばさん、おじさんのことも道行く小学生のことも見知らぬ人のこともネットで知り合った人のことも。

誰に可愛い、と言われても、誰に面白い、と言われても、誰に好きだと言われても、信じなかった。

信じられなかった。


そんな自分が嫌いで、そんな自分が最低だと思った。



だから、信じてみたかった。
嘘だとしても本当だとしてもどうでもよかった。


もし、信じることが出来たら、私は、最低な人間じゃなくなるんじゃないかと思った。























自分にたくさんの自分がいる。

「家族の会話も、知人たちの親しげな態度も、みんなが本心でやっているとは思えませんでした。どこかに脚本があるとしか思えずに、子供のころ、一度、家の中を探しました。自分も、みんなと同じように台詞を読みたかったのです。でも、脚本はどこにもありませんでした。本当に存在を感じるのは、死だけです。(GOTH)」



私も、似たようなことを思ったことがあるし、今でも、脚本とまではいかないまでも、マニュアルぐらいならどこかにあるんじゃないかな、なんて思う。


でも、私は、探さなかった。





神様か誰かの悪戯か悪意か何かで自分には渡されないのなら、自分で作ってしまえばいいと思った。





中一のころ、私は、国語が得意で、脚本家になりたかった。


国語が得意なのは、たまたまで、しかも、得意なのは、現代文のみで、文法や古文、漢文となると、てんで駄目だったのだけれど。


脚本家になりたかったのは、子どもの頃から、テレビが好きで、文章を書くのが好きだったから。小説家になれるほどの語彙力や文章力は私には無理だと思ったけれど、最近の若者言葉を散りばめればそれなりの形になる脚本なら、なんとかなるんじゃないかと中一の単純な頭でそう思った。



脚本家である私は、この二つの点を線で結んだ。
そして、先生に言った。



「私は、脚本家になりたい、と思っています。だから、国語の勉強を頑張っています。」



うそ。大嘘。

別に頑張ってない。
頑張ってないのに、国語の現代文がよくできる。

フィーリング?

確かに、学校の先生に言われた通りに、解こうとすると、解けなくなる。




でも、私は、知ってた。
それを誰かに言ってはいけないと。
誰かに言えば、きっと、私は、妬まれるんだと思った。









そんなこと言っても、結構、言ってきたかなあ。





美術の時間、テストが返される日に、先生の機嫌がすこぶる悪かった。


なんだろう、と思って、先生の対応を待っていたら、


先生は、こう言った。


「とりあえず、テストを返します。…返してから話します。」




私は、80点だった。
学校で友達がいなくて、休み時間は、美術の教科書や画集か国語の教科書や便覧か社会の教科書や資料集か図書館で借りた本を見たり読むしかなかった私だからこそ、取れた点数+テストの直前に近くの席の女の子に出された問題がそのまま出た所為だった。










そして、先生は言った。

「80点以上を取ったのは、二人しかいません。しかも、70点、60点台もほとんどいません。ほとんどの子は50点以下です。これは、いったい、どういうこと?」




ああああああ


私は、二番目だったのですね。
と思った。


そして、一番は誰だろう、と退屈で窮屈な先生の話を聞くうちに思った。



教室を見渡したら、一人、いかにも、割に合わない、という顔で先生の話を聞いている子がいた。岡田くんだった。


私は、なんか、面白くなってしまって、笑うのを堪えるのに必死だった。










色んな私がいる。

だから、そこには、「80点じゃだめだったんだ…。もっといい点を取っていたら先生は、怒らなかったかも。」なんて馬鹿なことを思う私もいた。



























色んな私がいる。



人を信用しない私。
「きっと、最初から私のことなんてこれっぽっちも好きじゃなかったんだ。きっと、どこかで、私の言動を実況だの何だのして、そこにいる仲間たちと『馬鹿な女』だと笑っているんだ。」




人を信用したい私。
「そんなわけないじゃない! 人を信じようよ。」



かっこつけたがりの私。
「彼に何を言われても、信じたかった。だから、「死ねよ」なんて言われても信じたの…。」



打算的な私。
「もし、彼を信じることが出来たら、今まで信じられなかったたくさんの人のことも信じられた気がする。でも、信じられなかった。私って最低なやつね。賭けてたのよ。自分の気持ちを賭けてた。でも、信じられなかった。でも、いいの。あれだけ人を信じようと思えた私が私は好きよ。これからは、偽者の私を愛して生きていくわ。」


死にたい私。
「死にたい。」


殺して欲しい私。
「殺して欲しい。」





怒りっぽい私。
「馬鹿にしやがって。絶対許さない。」




自虐的な私。
「私がいなかったら、彼は、こんなひどいことをしないでも済んだのよ。ごめんなさい。
 (交通事故にあって、被害者になったのに、私が、あのとき、あの道を通らなかったら、加害者の人は、私を轢かなくて済んだのに、っていうタイプの人。)」





愛されたい私。
「これは、愛情の裏返しよ!」






わけがわからない私。
「わけがわかりません。」







































他にもまだまだたくさんいる。



でも、すべての私の言い分を総合して考えると、




「もうめんどい。どうでもいい。」